24. 思い出はモノクロームがいい

1970年代の表参道

アナログのカラー写真は昭和の残滓か

実家の片付けをする中で思ったのですが、一番地味だけど時間と労力を食うのが、古い写真の整理だと断言いたします。
我が家の未整理写真は、親戚や知り合いから送られたものも結構な割合を占めていまして、これが手紙と一緒に元の封筒に入ったままの姿だったりするために、かさばる原因になっているのです。
どこぞの山での集合写真も、海を背にしたスナップ写真も、せっかく送ってくださったものではあるけれど、けれど、……ゴメン、他人の思い出や記録はもう、心を鬼にして処分箱行き。

親族や仲間の集まりで、記念写真やスナップを撮った人は、後日、関係者に配るのが礼儀というか責任だ! みたいな空気、かつては確かにありましたよね。
フィルム写真は現像や焼き増しに手間とおカネがかかったから、どことなく“貴重”で“ありがたい”特別なもの。だから、“もらった人は喜ぶものである”という前提があったのです。
そして写真を焼き増しして配る行為は、思い出を共有するための善行と言いますか、功徳を施すのに似た心境だったのかも。想像ですが。

ちなみに私の友人の場合、「写真送るね!」と言って別れても、実際に送られてきた記憶ってあんまりない……やはり親世代の律義さにはかなうわけがなく。
ただ、写真に写るのが嫌いな私は、そのままスルー&フェードアウトでむしろ好都合だったりもします。

簡単にやりとりや拡散ができるデジタル画像とは全くもって異質な、重くて大きな付加価値が、あの頃のアナログ写真には備わっていたのでしょう。
自分と無関係な写真でさえ簡単には処分しにくい理由も、そのへんから説明できそうです。

モノクロ再評価の時節到来!

新卒で入った会社での話。社内行事のスナップ写真を勝手に撮って焼き増しし、どんなに端っこで小っちゃくでも写り込んでる人全員に配り回った専務がいました。これだけなら単に親切な人ですが、そのあと各自に写真代を5円単位で請求してきた……なぜ人望が無かったかが良く分かるエピソードです。

1970年代以降、昭和後期のカラー写真は劣化の激しさに愕然とします。色が飛ぶどころの騒ぎじゃなく、全体に黄色く褪せてボンヤリと不鮮明。自分の存在が消え始めてショックを受けるマーティ・マクフライ気分ですよ。
一般的な写真がカラーに移行していった時期が子ども時代にあたる、つまり現在50代以上の人は、思い出の写真のほとんどが、残念ながらそのようになっている可能性が高いと思われます。
ネガが残っていたら、デジタルスキャンという道もまあ、残されてはいますが……。

そこからすると、モノクロ写真の保存性の素晴らしさは賞賛に値します。
古い映画のスチール写真など、鮮明なモノクロは古びることがありません。フォトアートにしても、時にカラーをしのぐ雄弁さと芸術性は、圧倒的な訴求力を持っています。
両親の若かりし頃のモノクロ写真も全く同様で、不思議なタイムリープ感覚を味わってしまいました。こんなことだから、なかなか片付けがはかどらないんですけど。

色を取り去った後に残る“本質”の部分は、時間の軛からも自由だということでしょうか。
だとしたら、大切な記憶や忘れたくない思い出は、モノクロ状態で保存されているのかも知れません。

Sheila

23. 台風去ってもユーウツは去らず

台風明け出勤の“お作法”とは

昨夜から今朝にかけて、強い勢力の台風10号が九州地方に最接近しました。
台風だけはコロナをものともせず、今年も日本へGo Toするつもりらしい……むしろこれからがシーズン本番なので、あと2ヵ月ばかりは覚悟して用心しないといけませんね。

都会の勤め人にとって、台風や大雪などの気象災害と出勤ストレスは、大きな労働問題です。
だって首都圏での台風明けなんてのは、公共交通機関がほぼストップすんのよ。動いてても徐行運転でノロノロだし、やっと来た電車は超満員で乗れやしない。次の電車も、その次も。延々並んで見送って、ホームは人で溢れて落っこちそうになってさ。ヘトヘトでようやっとオフィスに到着したらもう昼過ぎ。気がつきゃランチを食べそびれてたというオマケまで付いてたりするんだから。……

この問題は一つに、大勢の勤め人が、同時に同じマインドで同じ行動をとることにあります。
朝は“少し早めに”家を出て、駅に行ったらやっぱり電車は遅れてる。乗れたはいいけど、1ミリも動かない車内ですし詰め状態……これでオフィスまで我慢してるんですよね、みんな。これを拷問と言わずして何と言うの。

本音では誰もが、こんな無駄で無意味なことアホらしくてやってらんねーよなとか、気づいてはいるんです。でも、ケンカや対立で面倒起こしてクビなんてイヤだから、波風立たないよう、一応みんなと同じにしとくんだよね。しょうがないよね。宮仕えはツラいね。

ただ、何が気持ち悪いって、この一連の行動様式は全て、「ホラ私、こうしていつも通りに出社しようと頑張ってるでしょ?」とアピールするための、ジェスチャーだってことです。
日本人は、カタチから入ることにあまり抵抗を感じないこともあるんでしょう。形式を踏襲しつつ、その奥にある本心を「分かってください」は、まさにお家芸なのです。
気象災害時における通勤の“お作法”も、日本の奥ゆかしき〈○○道〉の一つに含めてはいかがでしょうか。

這ってでも来いとか言ったヤツ、出て来いや

いやいや、そう悠長に構えてる場合じゃない。この、見えない部分でこじらせた承認欲求というか、卑屈さに根ざした社畜根性がここまで育った原因は何なのか?
それは考えるまでもなく、台風だろうが大雪だろうが「とにかく来い」と指示する人間こそが、諸悪の根源に決まっています。

タクシー代を支給するでもなく、「何が何でも定時に来い、這ってでも来い」とか、すいません意味分かりません。食い下がったところで、「それが社会人の務めだ」あるいは「つべこべ言うな」系の頓珍漢な根性論を平然と返しよる。何なんですか馬鹿なんですかと。

そのような悪しき伝統を何の疑問もなく受け入れ、脈々と守り受け継ぐ土壌が、この国には確実にあったことも事実でしょう。
その結果、非科学的で封建的な“いいから来い”社会、簡単に言えばブラック企業が生まれたというわけなのさ。

こんな風に、誰も幸せにしない社会風土に嫌気がさしていた人、これからはアナタの時代かも知れません。
あらゆる無駄や矛盾の洗い出し&問い直しが始まった今、社会の健全な発展を阻害しそうな存在は、どのみちジリ貧だからです(強め)。
とりあえず、ワーカーを悩ます台風関連の通勤問題は、〈新しい日常〉を構築するとっかかりとして、最優先で俎上に載せるに十分なテーマであるとだけ、強調しておきます。

Sheila

22. ハナシにならない話をしたあの人

“痛くなってから行く”は変えられるか

案の定と言いますか、世間は次期総裁選の話題で持ち切りですが、3候補者中でもとりわけ強い個性によって異彩を放つのが、石破茂氏でしょう。
そう、この人ね、相当に世情を勉強していて、それを自分の政治活動のテーマである“共感”にどう落とし込むかを、ものすご~く研究してますね。鉄オタは素だろうけど。

で、昨日などは国会内の歯科クリニックでの定期健診の様子を、取材陣にわざわざ公開しました。
一般に、歯科検診ほど無視されてる呼びかけも珍しいんですよ。歯科医師は「せめて半年に1回程度、痛いとこが無くても検診には来てほしい」とさんざん言ってるのにこの現状、PRが上手くないせいもあるんだけど。

そこへ石破氏ったら週1検診がデフォだなんて、すごくない??? しかも同クリニックが「数少ない憩いの場」とはまた。フツーの人とは、やることなすこと違うわね、やっぱ。歯科医師会と歯磨き業界から感謝状くるかも。

かつて、歯科医院は「痛くなってから駆け込む場所」的な認識で合ってた時代がありました。
昨今、一部の意識高い系さんたちのように、虫歯予防や歯周病ケアはもちろん、歯列矯正やホワイトニングで歯を美しく見せることにも余念がないなど、日本人の審美歯科への意識はだいぶ変わったと言って良いでしょう。
いわゆる“味噌っ歯”の子どもを昔ほど見かけないのも、栄養状態と親御さんの意識が共に向上した成果である可能性が高いし。
さらに忘れがちですが、歯科素材や歯科技工技術の進化も、お口の健康維持の一翼を担っています。もう、感謝しかない。

歯の美と健康は“不要不急”なのか

ハタと思ったんですが。歯列矯正やホワイトニング、セラミック冠などの〈審美歯科〉のケアって、ほとんどが自由(自費)診療、つまり保険外診療の扱いなんですよ。
審美目的や、高額な素材の任意使用に保険適用が認められないのは、歯科に限らないことですが、ということは要するにこれらはどれも、「命に関わらないし、緊急性もない」、即ち“不要不急”認定されているわけで。

保険が使える一般的な虫歯治療に使われる合金や樹脂素材は、前述の通り格段に質が良くなったし、患者の経済的負担が少ないのは本当に助かります。ただ、長期的にはデメリットのほうが大きいと思うんですよね。

金属の詰め物や冠は、見た目がアレなのもそうだけど、金属アレルギーや二次う蝕は相当に申告です。白いプラスチックは、目立たないのはいいんだが、熱や力に弱く、変色や着色が起きやすい、などなど。
いずれも耐久性の点で問題が多く、結局はその場しのぎの対症療法でしかない印象が拭えません。なのに「それがイヤなら自費で高い治療を選べばいい」ってシステム、考えるほどモヤってきてしょうがない。

歯科クリニックは癒しのサロンだとおっしゃる石破氏、上下前歯の歯列がスパ~ッと一直線なのが気になりだすと止まらない……素人のカンですがもしかして、強い歯ぎしりが原因かも。睡眠中の歯ぎしりや食いしばりって、すごく歯がすり減るんですよ。これは経験から申し上げますが。

目の上の政敵からの圧に囲まれるのって、眠ってる間に歯を食いしばってもおかしくないストレスだと想像します。でも、ひとたび摩滅した歯は検診でも取り戻せないから、まあまあお大事になさってください、としか。
……えっ、今日は理容室で散髪ですかそうですか。そうよねー、身だしなみって、た、大切だものね。

Sheila