27. “繊細さ”への覚醒ブーム到来?

〈HSP〉認定で救われるのは誰か

最近、自称〈HSP(Highly Sensitive Person)〉の人が急増している傾向が気になっています。
HSPとは、ざっくり言うと感受性と共感性が非常に高く、敏感で繊細な性質を生得的に持った人のことで、1996年にエレイン・アーロン博士が提唱して以降、日本を含め世界中に広まった概念です。

社会経験が乏しく、対人関係で悩むことの多い若い人に、“繊細すぎて生きづらい人へ”というコピーがまさに救世主の声のように響いたとしても、何ら不思議はありません。
生まれ持った特性の良い面を活かして活躍しましょう、とのアドバイスも、声のデカい連中から散々な目に遭わされてきたHSPさんには、この上ない励ましになっていることでしょう。

HSPと診断できる人は全体の約2割、すなわち5人に1人の割合だそうです。これが多いか少ないかは意見が分かれそうですが、40人学級なら8人、とすると結構居るのねという感じはしますね。
ところが近年、HSPへの認知度の上昇が、「これ、ワタシのことじゃん!」との目覚めを促し、やがて我も我もと大河のごとくに広がりを見せ、結果として世の中が繊細な人だらけになってうるさいほどに感じられる印象があります。

例によって、この手の研究と真剣に向きあうには、安易なブームのお祭り騒ぎが終息してひと段落するまで待たねばならないのでしょう。
つまり、冷やかしだけのお試し会員が、このお祭りのことをすっかり忘れてくれる、そのプロセスがどうしても必要だということです。

〈自称敏感肌〉という永遠の謎

これと地続きの社会現象として思い出したのが、〈自称敏感肌〉問題です。
1990年代以降、スキンケア美容への関心が高まるにつれて、敏感肌を自称する女性が世にあふれ返った時代がありました。いえ本当なんですよ。
実際に“敏感肌用”ブランドにこだわる人や、メーカーに配合成分の詳細をしつこく問い合わせる人が増えたりなどは、日本人らしい生真面目さもうかがわれますが。

でもねーそもそも論はアレだけど、〈普通肌〉なんてものはあり得ないのが普通なの。誰でも季節や体調で肌の調子は変わるし、肌トラブルだって生きてる証拠。いろんな製品を次々と試すとか、間違った使い方でもしたんじゃ、おハダもかぶれて当たり前なんですよ。
アタシはそうじゃなかったって人、いたらゴメンね。

ズバッと言います。要するに“敏感な肌”は“繊細な人”のイメージに直結していて、そのように見られたい女心が〈自称敏感肌〉という妙ちきりんな闇を造り出した可能性は、限りなく高いのです。
“繊細な人”へのホノカな憧れが、「自分は敏感肌だと思う」の自己申告につながっていった側面は、全てではなくても確かにあったと。ただ悪気が無いだけに、そこを責めるのは酷というあたりも、この問題をいっそうモヤるものにしています。

結局のところ、何をもってして敏感肌とするのかは今も確たる基準がなく、依然として謎のままです。
HSPも同様に、セルフチェックのみの判断基準である以上は本人の自覚に依って立つ概念に過ぎず、それが説得力における限界を示してもいます。

とは言いつつ、人はどこかに、繊細さを美質と捉えて憧れる気持ちを持つのも事実。「敏感で、繊細であること」に近づきたいサガみたいなものを、無視してはいけないと思うのです。

まあ、本当の本当に繊細な人って、毎日がお辛くてそれどころじゃないはず。だからこたびのHSPブームも、多様な気質を理解する最初の一歩と解釈すれば、そう悪い流れではないと言えなくもない……って、この歯切れの悪さは何?

Sheila

26. 敵もまた細部に宿ると知った夏

マスクが露わにした、あるものの本性

春からこっち、通勤しない身分になったおかげで、服や靴、そして化粧品の消費が目に見えて減りました。
今回ほど、外出せぅず人に会わない期間が長く続いたのは自分史上初めてですが、週5フルタイムで働くことが自分にとっていかにストレス大であったか、そしてそのための経費がどれほど家計を食いつぶしていたかを知った気がします。

マスク着用が習慣化するにつれ、OLさんたちのコスメ消費も、だいぶ変化したと聞きます。せっかくメークしても覆い隠してしまうからと、リップやチークの売り上げが目に見えて落ちている現状も、まあ無理からぬ側面はありましょう。
ただね……この件については、5月に大手夕刊紙に掲載された、某オジさんジャーナリストによる記事中の表現が、今も引っかかってしょうがないのです。

要約しますと、“マスクで顔の大半が隠れてしまうのに、わざわざ「口紅を差したり、ファンデーションを塗りたくっても意味がない(原文ママ)」ので、女性が化粧をしなくなる”……まとめると何だかそのような主旨なのですが、……

またしても振り出しに戻る?化粧文化

何なの塗りたくるって。塗りたくる? 誰に向かって言ってんの。言ってること分かってんのかな。
こういうこと言う男性にとって、今でも女性の化粧行為というものは、“(美しくもない女が)化けるための姑息な手段”でしかなく、「いくら塗りたくったって大して変わらんのに、やれやれ」的な、昭和感たっぷりのサゲニュアンスが言外に透けて見えるってのがまた。

そういうワケだから、美意識の高い女性にとって重要なアイテムであるファンデも、おっさんたちからすればペンキ同様に“塗りたくるモノ”でしかないという認識で、たぶん合ってるんでしょう。
そもそも、現代の最先端ファンデがどんなものか、いやそれ以前に化粧って何なのかも知らないまま分析記事書いてる可能性大だよね。
まあ人間、思ってもいないことは絶対に口をついて出ないものだから、これで分かりましたね。リッパな政治家先生がやらかすセクハラ失言とかも、これと同じ構造ですね。

もう一つ言えば“口紅を差す”って表現、和装をしない今ではピンと来ない人が多い仕草だったりします。気になるかたは、おググりくださいませ。

年配の経済ジャーナリストに向かって、化粧文化の何たるかをレクチャーする気などこちらには無いし、専門でもない人にそこまで厳密さを求めるのは酷ってものでしょう。どれもおそらく、特に意識せずに書き流した部分だろうとは推察しますよ、こちらも大人ですから。
あーおっさん勢い余ってやっちゃった、ズレてんなあという脱力感を通り越して、もはや「さすが、そう来なくっちゃ!」の域かも知れませんが。

問題は、化粧文化や時流に対して不見識かつ鈍感なまま、知った風に古ぅーい価値観で上から断じるスタンスにある、と言いたいのです。

“塗りたくる”の表現一つにも、ここまで地雷てんこ盛りって、どうやら神も敵も共に細部に宿るらしい。価値観のズレや掛け違いは、どんなに些細であってものちのち厄介なトラブルに育つのって、誰しも経験あるでしょうに。
そのへん、自分だけは大丈夫と思わず、そろそろ謙虚に学べってことじゃないんですかね。

Sheila



25. ジャズで踊って今宵も更けゆく

夜の帳に溶け込む音楽

秋の夜長、ゆったり系ジャズを延々と流してくれる動画チャンネルが人気です。
コロナ規制で気楽に飲みに行けない人が多いこともあってか、自宅に居ながらバー気分に浸れるとあって、評価は上々。ピアノ+サックスのスローテンポなコンテンポラリージャズは、やはりミッドナイトがふさわしい。なぜかカタカナいっぱい。

居酒屋は気軽に行けても、小じゃれたバーとなると、慣れない人には若干ハードルが高いと感じるかも知れません。何かこう、分からないなりに独特の“しきたり”の存在を想像してしまい、勝手に気後れするんですよね。
それ、半分は妄想で半分は事実ですが、そのくらい気配りができる人なら大丈夫です。

一般的なバーは、高級料亭みたいに客を選ぶわけじゃないので、ビギナーさんはまず地元のお店をのぞいてみてはいかがでしょう。気さくなアットホーム系とか、照明をうんと落とした大人系とか、店によって個性もいろいろ。ポイントは、自分と相性が良くて居心地がいいかどうかで選べばOKなのです。

なお商店街の場合、バーは小さな雑居ビルの地下もしくは3階以上とかが多いので、看板を丹念に見て探しましょう。意外にたくさんあったりします。

基本は静かに飲みたい大人が来る場所なので、先客への配慮とか、常識的なマナーはもちろん必要です。けれどごくまれに、何らかのきっかけで知らない人と意気投合することもあります(特定のスポーツファンの店等は除く)。
狭い空間ならではの距離で生まれるコミュニケーションスキルは、リモートじゃどうやっても磨かれません。

甘く危険なカクテルの罠

それでもバー飲みのハードルが高いと感じるなら、理由の一つはカクテルのオーダーの難しさにありそうです。
入った店の雰囲気が厳しそうに感じたら、とりあえずはメニューにあるものを頼むことで切り抜けましょう。大事なところで急に弱気になってスマンこってす。

というのは、バーテンダーにカクテルを頼む際、「分からないのでお任せします」は超絶的に失礼で最低最悪な注文の仕方だ、とさんざん聞かされながら、こうするのがいいとのアドバイスは一向に得られていないからです。
常連相手に成り立ってきた商売ゆえ、今さら野暮は言いっこなしの世界なのかも知れません。しかし、バー文化への理解を求めるのなら、業界側ももう少し親切に歩み寄ってくれても損はないと思うんですがねえ。

カクテルの知識や流儀を学ぶ機会なんて、ヘタしたら一生無い人だって居ます。なので、まごついた客が困って丸投げしてきたからってヘソ曲げるとか、あまりに自分目線じゃないかって話ですよ。スープを残すと怒るイヤミなラーメン屋と同じニオイがしまっせ。


女性向けと称したカクテルは、女性を酔わせて口説くための酒であり、口当たりが甘くても強めなので飲みすぎないように、なんて大昔に言われたのをフト思い出しました。
まあ、時代が若かったというか、いかにもバブリーなシチュエーションで笑っちゃいますが。

今の若い人には、イザというとき、お気に入りカクテルをスマートにオーダーできるよう、今のうちにトレーニングを積んでおくのはムダじゃない、とだけ言っておきます。
ジャズを流せばほら、その場は一瞬でバーチャルバーに早変わりするんですから、ホントに。

Sheila