“まだ使える”の沼とモノの寿命
基本、腐らないとされるモノのほうにも、寿命はあります。モノの寿命というものは、手放しのタイミングを知らせてくれる最強にして最後のチャンスなので、もっと意識すべきだとは常々思うことです。
まず分かりやすいのは、カビや汚れ、変色・変質などの経年劣化。触る勇気すら出ない状態で発見したときのショックはなかなか強烈ですが、一も二もなく廃棄処分できる点で、まだタチが良いと言えます。
厄介なのは、流行遅れや型遅れ。まだ十分使用に耐えるので、年配者に多い「もったいない」や「まだ使える」系の“魔の引き留め”に遭いやすく、手放し作業で最大の障害となります。
昨シーズンのヘビロテ服が、今年はもうアカンようになってまうのは、直感がアウトだと判断してるのに、思考がフル回転で“捨てないで済む言い訳”を探してしまうためです。
それか、買って10年程度の道具ならまだ全然使えるけど、最新型のほうが性能も使い勝手も断然良くて魅力的、という場合もよくあります。
“まだ使える”は、ひょっとしたら単純な“もったいない”よりも、ずっと悩ましいステータスかも知れません。
物持ちの良さがアダになる瞬間
身近にあるウレタン系のゴムや樹脂は、水分による劣化、即ち加水分解が最大の弱点です。
スニーカーのソール部分がボロボロになるのもそうだし、しまっておいた合皮のバッグや小物がベタベタになっててどうにもお手上げ、ってあれ悲しいですよね。
素材の中には、現在の技術をもってしてもなお避けられない、経年劣化という宿命があります。保管するのは構わないけれど、その点の認識だけは必要なのです。
最近、古いCD製品のケースに同梱された緩衝材のスポンジが劣化し、ディスク表面の樹脂層を溶かしてしまうというショッキングな事例報告が相次ぎ、問題になっています。
市場に出回り始めた頃のCDなら40年近くも経過しているはずですが、本来は開封後すぐに捨てるべき薄ぅ~いスポンジ素材が原因で完全にオシャカとは! そ、そんなあ!
すでに廃盤の貴重な音源が二度と再生できなくなったと嘆く人が続出する今、超古いCDをお持ちの方は、すぐに総点検されることをおすすめします。
ちなみにわが家でも、あるとき父所有の古いスピーカーのスポンジネットが、みごと粉末状に崩壊しました。よくマンガとかで、人や物体が黒い粉になって風で飛ばされて無くなっちゃう、まさにああいうディストピアな光景でしたね。
見えない場所のあちこちによく使われているスポンジ素材は、マジで要注意アイテムです。
物持ちが良いことは美点ではありますが、劣化しやすい素材が使われたモノは意外に短命です。経年劣化は予想しない事故を招くし、そうならずとも結局は廃棄処分せざるを得なくなります。すると、これまでの努力と時間はすっかりパアです(あえてそこまで計算して放置し、廃棄の理由にする人もいますが、あまり付き合いたくないタイプ)。
これからは、“モノ自体の寿命サイクル”という概念を、保管or手放しの判断材料の一つに加えてみてはいかがでしょうか。
限りある自分自身の持ち時間と空間を優先するには、ちょっとばかり冷酷になる必要が、やはりどうしてもあるようです。
Sheila