26. 敵もまた細部に宿ると知った夏

マスクが露わにした、あるものの本性

春からこっち、通勤しない身分になったおかげで、服や靴、そして化粧品の消費が目に見えて減りました。
今回ほど、外出せぅず人に会わない期間が長く続いたのは自分史上初めてですが、週5フルタイムで働くことが自分にとっていかにストレス大であったか、そしてそのための経費がどれほど家計を食いつぶしていたかを知った気がします。

マスク着用が習慣化するにつれ、OLさんたちのコスメ消費も、だいぶ変化したと聞きます。せっかくメークしても覆い隠してしまうからと、リップやチークの売り上げが目に見えて落ちている現状も、まあ無理からぬ側面はありましょう。
ただね……この件については、5月に大手夕刊紙に掲載された、某オジさんジャーナリストによる記事中の表現が、今も引っかかってしょうがないのです。

要約しますと、“マスクで顔の大半が隠れてしまうのに、わざわざ「口紅を差したり、ファンデーションを塗りたくっても意味がない(原文ママ)」ので、女性が化粧をしなくなる”……まとめると何だかそのような主旨なのですが、……

またしても振り出しに戻る?化粧文化

何なの塗りたくるって。塗りたくる? 誰に向かって言ってんの。言ってること分かってんのかな。
こういうこと言う男性にとって、今でも女性の化粧行為というものは、“(美しくもない女が)化けるための姑息な手段”でしかなく、「いくら塗りたくったって大して変わらんのに、やれやれ」的な、昭和感たっぷりのサゲニュアンスが言外に透けて見えるってのがまた。

そういうワケだから、美意識の高い女性にとって重要なアイテムであるファンデも、おっさんたちからすればペンキ同様に“塗りたくるモノ”でしかないという認識で、たぶん合ってるんでしょう。
そもそも、現代の最先端ファンデがどんなものか、いやそれ以前に化粧って何なのかも知らないまま分析記事書いてる可能性大だよね。
まあ人間、思ってもいないことは絶対に口をついて出ないものだから、これで分かりましたね。リッパな政治家先生がやらかすセクハラ失言とかも、これと同じ構造ですね。

もう一つ言えば“口紅を差す”って表現、和装をしない今ではピンと来ない人が多い仕草だったりします。気になるかたは、おググりくださいませ。

年配の経済ジャーナリストに向かって、化粧文化の何たるかをレクチャーする気などこちらには無いし、専門でもない人にそこまで厳密さを求めるのは酷ってものでしょう。どれもおそらく、特に意識せずに書き流した部分だろうとは推察しますよ、こちらも大人ですから。
あーおっさん勢い余ってやっちゃった、ズレてんなあという脱力感を通り越して、もはや「さすが、そう来なくっちゃ!」の域かも知れませんが。

問題は、化粧文化や時流に対して不見識かつ鈍感なまま、知った風に古ぅーい価値観で上から断じるスタンスにある、と言いたいのです。

“塗りたくる”の表現一つにも、ここまで地雷てんこ盛りって、どうやら神も敵も共に細部に宿るらしい。価値観のズレや掛け違いは、どんなに些細であってものちのち厄介なトラブルに育つのって、誰しも経験あるでしょうに。
そのへん、自分だけは大丈夫と思わず、そろそろ謙虚に学べってことじゃないんですかね。

Sheila